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【水素】上智大学理工学部機能創造理工学科研究グループによる水素脆化(すいそぜいか)の研究

 CO₂を排出する石油・石炭・天然ガスの代替として水素が注目されていますが、欧州特許庁と国際エネルギー機関が「水素に関連する世界各国の特許の出願状況」をまとめた報告書によると、日本は2011~20年の10年間で全体の特許出願件数の24%(首位)を占めており、水素技術も日本企業の技術が優位にあると評価しています。


 注目されている水素技術ですが、更に大きく普及するためにはクリアしなければならない課題が「水素脆化(すいそぜいか)」の対策です。

水素脆化とは、水素原子が材料中に吸蔵されることで材料の強度が低下し、脆くなる現象のことです。 金属材料が影響を受けやすく、特に炭素を含んだ高強度の金属材料は水素の感受性が高いといわれています。タンクだけでなく配管も影響を受けますので高圧水素が直接触れる場所に金属を使うと、いつか爆発するというリスクを抱えることになり、金属脆化の課題解決が望まれています。

この課題に対し、上智大学理工学部機能創造理工学科の高井健一教授、千葉隆弘氏(同大学大学院、現:日本製鉄株式会社)らの研究グループが成果を発表しましたので掲載します。


以下、上智大学の記事からの引用となります。詳しくは下記のリンク(上智大学サイト)をご覧ください。



上智大学の発表資料

<本研究の要点>

・金属材料が水素によって脆くなる現象に関して、実際の破壊に近い破面を実験室で再現する試験方法を開発。


・結晶粒界破面直下の局所領域を解析し、水素による原子間凝集力の低下だけでなく、塑性変形に伴う原子空孔の形成も結晶粒界破壊に関与することを実証。


・水素による強度低下の抑制につながり、さまざまな種類の自動車への適用や新規材料開発に期待。


<研究の概要>

 上智大学理工学部機能創造理工学科の高井健一教授、千葉隆弘氏(同大学大学院、現:日本製鉄株式会社)らの研究グループは、水素によって金属が脆くなる現象(水素脆化)の原因について調査し、実際の破壊に近い破面を実験室で再現する試験方法を開発し、その新しい試験方法で破壊した結晶粒界破面直下の領域に存在する格子欠陥の詳細を明らかにしました。また、この粒界破壊(※1)が起こる機構は、従来から報告されている水素による原子間凝集力の低下のみが要因でなく、破壊する直前の局所的な塑性変形(※2)により形成する原子空孔や空孔クラスタの水素による助長も要因であることを実証しました。本研究をさらに発展させることにより、金属材料が水素によって脆くなるメカニズムの解明、およびそれをベースに強度と延性低下の抑制手法の開発につながることが期待されます。


水素原子が金属材料内部に入り込むことで、強度や延性を低下させることが知られています。特に、高強度鋼は水素によって脆くなりやすく、粒界破壊や擬へき開破壊(※3)を引き起こすことが知られています。しかしながら、影響する因子が多く、互いに複雑に絡み合うため、その詳細な機構に関する統一的な見解は得られていませんでした。本研究グループは、実使用環境で起こる水素による破壊を再現できる試験方法の開発、およびそのメカニズムの詳細を解明することを目的とし、研究を進めてきました。


本研究では、従来の水素脆化試験方法である荷重を連続的に増加する引張試験、および一定荷重を負荷する定荷重試験とは異なり、逆に、荷重を低減させながら繰り返し荷重を負荷する荷重低減試験方法を開発し、焼戻しマルテンサイト鋼(※4)を水素脆化破壊させました。得られた破面は、ほぼ全面にわたり粒界破面となりました。粒界破面を含んだ試験片と粒界破面を含まない破面から離れた領域の試験片を準備し、低温昇温脱離法(L-TDS, ※5)をはじめとした各種分析を行いました。その結果、粒界破面を含むその直下の試験片では、原子空孔に対応するトレーサー水素(※6)のピークが出現しました。また、電子線後方散乱回折法(EBSD, ※7)や電子チャネリングコントラストイメージング法(ECCI, ※8)による解析結果から、粒界破面直下に局所的な塑性変形、および粒界近傍にナノボイド(※9)の連結が観察されました。本研究成果により、水素脆化は、従来提唱されてきた水素による原子間凝集力低下機構だけでなく、複数のメカニズムが相乗的にはたらくことで生じる破壊現象であることが解明されました。


本研究成果は、2022年10月1日に国際学術誌「Scripta Materialia」にオンライン掲載されました。



<用語>

※1 粒界破壊: 材料を構成する結晶粒の境界に沿って破壊が起こること。

※2 塑性変形: 外力を取り除いても、材料の形が元に戻らない変形。

※3 擬へき開破壊: 結晶粒の境界に沿って破壊する粒界破壊に対して、結晶粒内を脆性的に破壊する場合のことであり、多数の微小な脆性き裂が発生成長し、延性的に合体する破壊のこと。

※4 焼戻しマルテンサイト鋼: 鋼を高温のオーステナイト状態から急冷しマルテンサイト組織とし、その後、A1温度以下で焼戻しを施した高強度鋼のこと。

※5 低温昇温脱離分析法(L-TDS, Low-temperature thermal desorption spectroscopy):通常の室温から試験片を加熱し脱離するガス成分を検出する昇温脱離法に対して、-200℃の低い温度から加熱し脱離するガス成分を測定する手法。

※6 トレーサー水素: 金属材料内の格子欠陥の種類と量を調べるために、外部から目印として導入する水素のこと。

※7 電子線後方散乱回折法(EBSD, Electron backscatter diffraction): 測定する試料に電子線を照射し、試料表面~約50nmの各結晶面で回折した電子線の後方散乱回折パターンを測定することで、結晶学的な情報を得る測定手法。

※8 電子チャネリングコントラストイメージング法(ECCI, Electron channeling contrast imaging): 電子線回折によって電子線量が変化することを利用し、原子レベルでの構造を観察する手法。

※9 ナノボイド: ナノスケールの空孔や空洞。

※10 引張強さ: 引張荷重を受ける材料が破断せずに耐えうる最大荷重。

※11 カップアンドコーン破壊: 引張試験において破壊して2つになった試験片の先端が、一方はくぼんだ形で、他方は円すい様の形になること。


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