top of page
key_single.png

【発電装置】トヨタMIRAIの技術で水素発電する定置型装置

 フランスのEODev(エナジー・オブザーバー・ディベロップメント)社が製造する定置型水素発電機『GEH2』はトヨタ自動車の燃料電池車MIRAIの水素技術を使用した設備だ。EODev社にはトヨタ自動車の欧州部門のトヨタモーターヨーロッパ(TME)が出資している。

この発電機の性能は1kgの水素で39kWの発電ができ、80kWの連続発電ができる。ちなみにトヨタMIRAIのDC外部給電の最大出力は9kWだ。本体サイズは幅3.3M、高さ2.3M、奥行1.1M。


 ただし、現状の問題は燃料となる水素の供給である。今、最も有力な水素サプライヤーは岩谷産業だが、自動車のトヨタMIRAIに水素ステーションで提供している1kg当り1,100円という金額は政府の支援によって成立している価格であり、工場への供給金額はこの単価ではない。

自動車のように自走できない工場への供給は、水素の容量が800分の1に圧縮できる液化水素か、高圧ボンベでの配達となる。液化水素はマイナス253℃まで温度を下げなければならず、専用設備も必要になる。この場合、水素サプライヤーである岩谷産業は設備を貸し出すとしているが、採算がとれる水素利用量がないと成立しない。このため中小企業ではボンベ1本からでも供給してもらえる高圧ボンベによる配達が現実的だが、そうなると単価は高くなる。現在の事業環境下では、電力会社から一般電力を購入する料金に比べ、ざっと10倍程度の費用になると岩谷産業では試算しているようだ。


 川崎重工がオーストラリアの褐炭を使った水素を試験船で運ぶテスト運用をしており、試験運用段階では1Nm3(ノルマル立米)あたり170円程度(船上渡し価格)かかっていると発表されたが、政府は2030年までに30円まで下げる計画だという。この金額が実現すれば、太陽光発電システムと蓄電バッテリーを組み合わせて導入することで工場の電力サプライとして現実的な範囲に収まる可能性がでてきそうだ。ちなみに1kWhは860.4kcalであり、1MJ(メガジュール)は239.006kcalだから、自社の消費電力から換算すると1日の必要量が計算できるだろう。大がかりな設備が不要で中小企業にとって使いやすい圧縮ボンベは1本7m3の容量、それを30本をまとめたカードルで2,700MJ(645,316.2kcal)の熱量(約750kW)だ。


 一方で、トヨタは水素発生装置も開発している。こちらもMIRAIの燃料電池技術を応用し、変換効率が良いといわれる高分子イオン交換膜を電解質として純水を電気分解する固体高分子水電解装置だ。

構成部品製造プロセスの9割を燃料電池製造技術から流用できるため、自動車用と合わせた量産効果を狙っているのかもしれない。屋外で長期間運用できるよう縦2.3M×横5.8M×高さ2.8Mのコンテナに収まっている。

現段階の性能は1時間あたり約8kgの水素を製造できるが、1kgの水素を生産するために53kWhの電力を消費する他社の電解装置と比較すると効率が悪いのが気になるところ。

トヨタが採用する固体高分子水電解装置は純水製造装置による負荷もあるが、たとえば東レと日立造船が開発した装置は1kgあたり27.8kWhの消費電力なので2倍近い効率だ。


 同じトヨタグループのデンソーが、セラミック膜を利用し600~800℃に加熱すると変換効率がよくなる水素の性質を利用して固体酸化物型(SOEC型)水電解装置の開発を進めている(2025年~2030年に実用化予定)ので、各社の今後の研究開発に期待したい。


 また、水素のまま輸送するのではなく扱いやすい別の物質に変えて輸送し、工場等の使用現場で水素へ戻す方法もある。注目されているのがメチルシクロヘキサン(C7H14)だ。水素とトルエン(C7H8)を反応させて生成する化学物質で、取り扱いはガソリンと同じで、常温・常圧のままケミカルタンカーやタンクローリー車などで運ぶことができるので、自動車社会で発達したインフラが活用できる。体積も500分の1になるので場所も節約できる。ただし、トルエンは消防法により危険物(危険物#第4類第1石油類)に指定されており、引火性を有する劇物だから、貯蔵には危険物乙四資格者と消防署への届出が必要になる。


 なお、水素は製造方法によってグレー水素(化石燃料由来で製造工程においてCO₂を排出する)、ブルー水素(化石燃料由来だが製造工程において排出されるCO₂を回収・貯蔵することで排出を実質ゼロとみなすもの)、グリーン水素(再生可能エネルギーを使って製遺贈される)に分類される。

日本政府が推進するブルー水素(化石燃料由来だが製造工程において排出されるCO2を回収・貯蔵することで排出を実質ゼロとみなすもの)がIEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)に認められるかが注目されていたが、1kgの水素製造で排出されるCO₂が7kgを下回ればグリーンとみなすという炭素集約度の指標が2023年4月11日に発表され、国際社会においてブルー水素がグリーン燃料として認められる目処が立った。


EODev社製『GEH2』定置型水素発電機(写真出展:response)

岩谷産業の水素ボンベ(出展:岩谷産業ホームページより)

このレビューに対するお問い合わせ

このレビューに関するご質問は、下記のフォームでお問い合わせください。

個人情報保護方針に同意して送信する

ありがとうございます。 担当者からの連絡をお待ちください。

他のレビューを見る

bottom of page